もう先月の話ですが、西宮北口付近で
毬谷友子さんのひとり芝居「弥々」を観てきました。
良寛さんが登場するので、
江戸時代の終わりごろのお話です。
田舎娘「弥々」は、栄蔵の恋心を知りつつも、
夢の「おろしゃ」へ連れてってやる、
という男の口車に乗って、この彼と夫婦となる。
夢とは裏腹に、せっかく産まれた子も亡くし、
博打で借金こさえた夫に、片目潰されながらも、
結局、吉原で身を売る、やさぐれ暮らし。
「つまらない男」と弥々に手ひどく振られた、
栄蔵は出家して、良寛という高名な僧侶に。
栄蔵が立派なお坊さんになったと聞いて、
「あたし、本当は栄蔵坊が好きだったんじゃないかなぁ
でも、あたしみたいな卑しい女は相応しくないよね
だから身を引いたんだ うん、そうに違いないよ」
都合のいい風に思ってみたりしつつ、
栄蔵にもう一度遭おうと、彼の元へ馳せ参じるが…
舞台は日本とはいえ、
マグダラのマリアを物語の下敷きにしたそうです。
娼婦の弥々が、
良寛様(イエス・キリスト)に出会うことで、
彼に救いを見いだすという内容とも言えます。
弥々の一生涯を語る毬谷さんの
素晴らしいこと、ひとり「ガラスの仮面」。
「えへへ、またバーカやっちったなぁ」と
アホっぽさとキュートさを併せ持った声で、
少女となって無邪気に跳ねたと思えば、
まもなく、手足もなげやりに
寝そべる仕草も淫蕩に。
露出の高い赤と黒の衣装の、はだけるエロス。
終盤、仮面を付け、腰をかがめた老女になると、
世の中全てを忌み呪う、因業女の毒気も抜けて、
「えいぞーぼーーぅ」と呼ぶ声色も、
心なしか乙女の頃の無邪気なトーンへ回帰していきます。
可愛かったです、弥々。
ほんの二時間足らずの上演時間に、
ちょっと能天気な女の子、
娘の頃の無垢を失い、世間ズレした女、
時には、狂女と映るような、
いろんな領域の女性が、たった一人の女優の上で
「ふくらんだり、しぼんだり」。
(この「ふくらんだり、しぼんだり」も
弥々らしい言葉遣いでとてもいいセリフ。)
移ろいゆく弥々の人生と一緒に、
「そっちは明らかに口車だけの
遊び人の駄目男よ、逃げてー」
「私の(じゃないけど)赤ちゃん…」とか、
私の心もふくらんだり、しぼんだり。
気持ちが乗っていくお芝居でした。
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